午後6時30分、その少し前にピットインしたライダーから、計測器をトラ子に装着する。
そして最後のコースに出る。
アンカーライドの始まりだ。
ピットが封鎖され、各ライダー最後のサーキットに走り出す。
どのチームも最終ライダーはエース級、その日一番調子の良い者をアンカーに出してくる。
ピットロードからサーキット内に入るところ、ちょうど速い集団が最初のコーナーに走ってくるところだ。登り坂の第一コーナーでギアを上げる。
コーナーを曲がると、やや下り、ここでトップにギアを入れる。
ヘアピンカーブをパスして、ダンロップアーチをくぐる。そして次のヘアピンカーブへ。そしてバックストレッチ。400mくらいの直線で加速する。
Rの大きい最終コーナーを回ってホームストレッチ、300mくらいの直線だ。パドックの前を通過する。残りのメンバーは撤収作業に入っていることだろう。
前を走る選手の後ろについてドラフティングする。しかし、ペースが合わず、パスして前方のライダーを追う。
トラ子のディレイラーまわりから、異音がしている。デレイラーを引っ張っているワイヤーが伸びてしまったために起こる異音か?トラ子のディレイラーはダウンチューブに付いている。今主流のクリックでカチカチと変速するタイプではない。ギア比をいろいろと変えて、異音がしないポイントを探すが、なかなかできない。フロントもリアも最適な引き位置を探すが、見つからない。
おそらく、75kgはある私の体重に、耐えかねたのであろう。
トラ子、なんとか耐えてくれ。
一番重いギアで、ゴールまでいく。
ダンロップコーナー手前で、後ろの早い集団が迫ってくる。その最後尾に付いて引っ張ってもらう。
ヘアピンカーブでも34.5km/hくらいは出ている。コーナーでは千切れそうになるが、コーナーを出たところでなんとか追いつき、前のライダーの後に付く。
バックストレッチでは、もうブレーキレバーに指を伸ばしてもいない。下ハンドルをガッチリ握って、ペダルを回す。
イエローフラッグが振られているのを2回見た。落車があったりすると、イエローフラッグが振られる。追い越し禁止になる。事故をパスし、前のライダーの後に付いて走る。
私と、「チャリヒヨ」のアンカー、むーさんはヘルメットに発光スティックを装着している.暗くなっても、ピットから確認しやすいようにするためだ。走りながら、むーさんがいないか探してみるが、見つけることはできなかった。
速い集団のペダリングは回転が速い。彼らをイルカだとしたら、私のケイデンスはクジラのようにゆっくりだ。回転力ではとてもついて行けないので、重いギヤ比を選んで、力でペダルを回す。汗が目に入ってしみる。少し痛いので、手で拭う。
コーナーを回るときに、前の自転車のオカマを掘りそうになる。集団走行中だったので、イン側には逃げられず、外に出たが、そこにも、自転車が詰まっていてやむなくコースアウトする。一瞬落車が頭をよぎるが、スピードが乗っていたため、自転車を倒さずコースに復帰できた。
乳酸でパンパンになっていた筈のふくらはぎも、今は疲労を感じない。力を込めてペダルを回す。
「やまちゃん!」って声も聞こえてる。
時計を見る。もう6時48分だ。あと4周できるだろうか。
あと4周はする。
他のメンバーだって、この最後の30分は走りたいところだろう。それでも、私をアンカーライダーとして選んでくれたことに感謝する。
午後7時、チェッカーフラッグが振られて、最後の周回を回る。バックストレッチで一旦、すべてのライダーが停車する。暗くなったサーキット、自転車の後部につけられた赤の点滅の群れに入ってゆく。
チャリヒヨ隊のアンカーライダー、むーさんを探す。私と同じく、ヘルメットに発光スティックを装着されているのですぐにわかった。他のライダーをパスして、むーさんに近づく。
軽口を叩きながら、ゴールの手順を話した。詳しいことは話さない。手順だけ。すべてを話してこれから彼が感じるであろうものを小さくしてしまうことは避けたかった。
まあ、すべてを知っていたとしても、この感じが損なわれることはないだろうが。
そして、ゴールに向かって、ライダーたちはゆっくりと最後のペダルを回す。
ゴール手前で、花火が打ち上げられる。
チームの皆が、ピットロードに出てきて、アンカーライダーを迎える。
アンカーライドの緊張から解き放たれて、今年も無事ゴールで来たことに感謝する瞬間。
ロードバイクなんてものに乗っててよかったな。
女王陛下の命令の下、2007年、初めて筑波に来た。
それから3年、また来年もこのサーキットを走りたい。
この発光スティックは捨てちまったよ。
来年、また新しいスティックをつけなきゃいけないしな。
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